第三章
「10時か…そうか。」来たか…良っくまあ見付けるよね。なんで引っ越してもまたこんな小さな鉢を探し当てて卵を産み付けに来るかね…アゲハ蝶よ。
「近場のお引っ越しでしたよね、でもそれもお見通しなんですよ、逃げられませんからね。」とばかりに5月に入ると前と同じ様に午前10時頃にまたうちの鉢めがけてアゲハ蝶がヒラッヒラとやって来るようになった。
この数年の観察によりアゲハ蝶は我が家の柑橘系の葉っぱ(グレープちゃんやオレンジちゃん等)にしか卵を付けないのは分かっていた。近所の公園等で自生している柑橘系の木は沢山あるというのに良くまあこんな小さな鉢の小さな葉っぱを見付けて産んでくれるよな…。そっち行けって。こっちは細々インディーズでやってるんだから見逃してくれよ。せっかく瑞々しい可愛い葉っぱが出てきたと思ったらわざわざそこにピッと卵を置き、そしてこっちが見落としたら最後その美味そうな葉っぱから食べていくのだ茶色が。
グルメか!若い芽を摘むというやつか?摘むなよ、育てて実を食べるのが目標なんだから…。
よって移転してもあの夏の風物詩は新天地にて継続となった。
卵、茶色イモムシは発見し次第取り除き、アゲハ蝶は来たのを見かけ次第威嚇して追っ払いのルーティーン。もう慣れたものだ。
「あっ、こんな所にも居やがる。ゲッ、この茶色イモ、結構デカくなってんなぁ。ハイどうもね、サヨウナラね。ナニこの卵、ちょっと茶色いなぁ。もうすぐここから出てくるのか?あれ?この茶色いイモは他のイモとちょっと形と色合いが違うなぁ。まあ、いずれにしても排除です。ハイハイお疲れ様です。」
見付けても潰したりはせずそのまま捨てた。それが情けだ。
この戦いは毎年9月頃には終わった。秋になるにつれて連中の姿も見なくなり、植物達も古い葉を落としながら少しずつ越冬の覚悟を始める。ふと思う。
「アゲハ蝶ってどうやって越冬してんのかな?」
9月頃にあの戦いが終わった後、翌年の春にまた出現する訳だから長い冬を何らかの方法で凌いでいるのだろう。ではその方法はどうしているのだろうか。
「カブトムシとかあの辺のは幼虫の状態で土の中で、みたいな感じだよね。イモムシが土の中ってこたないよな。そっかあいつら確かあのイモムシ状態の後にサナギになるんだよな、その過程は良く知らないけど。だとしたらサナギのまま半年間以上キープして越冬?出来んのそんな事?聞いたことあるけど連中は一旦サナギの中で液体化するんだよな。まあその状態なら半年間の長期保存も可能か…。どういうメカニズムになってんだ、なんなんだあいつらは…。」
秋から冬にかけての戦いの無い季節に入ってから、なんだかあいつらの事が気になり始めてきてしまっていた。
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