第十四章

チョーちゃんに「誕生して十七日目の朝」が来ていたのかどうかは分からない。
そう考えると今まで自分に沢山の朝が来ていたのは実はラッキーだったのだ。そして「今朝」も私には来た。
妻は小さく別れを告げて出かけた。
その後すぐに鉢を用意し、その中央にチョーちゃんを埋めた。そしてその地点に一つグレープフルーツの種を植えてみた。
グレープフルーツの種…。全てはこれから始まったんだ。
続いて中央から少し外れた位置にサトウミズスワセに使っていた爪楊枝を墓標の様に刺してみた。
頭の中でRCサクセションの「ヒッピーに捧ぐ」が鳴った。
「お別れは突然やって来て、すぐに済んでしまった」
その日を境に原点に帰る事にした。
私は植物人間だった。
私は葉っぱをやる人だった。
私は何故か葉っぱが好きなのだ。
ここのところ蝶の事ばかり目をかけていたので正直葉っぱを疎かにしていた。だからもう一度緑と向き合おうと思った。
依然としてアゲハ蝶は我が家にやって来て卵を置いていった。
しかしもうそれはそのままにして自然に任せることにした。
出来る事と言えば、種を植えてイモムシが食べる用の葉っぱを増やす事だけだ。気分は定食屋のおばさんだ。どうぞどうぞ、おいでおいで。


三週間程経った朝。いつもの様に鉢に水をやりに外に出ると、チョーちゃんを埋葬した丁度その地点から小さな芽が出ているのを見付けた。
その芽は今もゆっくり育っている。朝見ると茶イモがいてちょっとかじっていたりする。駄目だ、これは食べちゃ駄目。別の鉢に移す。
これを育て、あわよくば木になったら、ゆくゆくはその木に乗り移ろうと思った。

(終)
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